Augsburg:グランドホテル・コスモポリス

難民の住居といえばどうしても砂漠地帯の乾燥した場所に無数のテントが設置された “難民キャンプ” を思い浮かべてしまうが、皆さんはどのような場所を想像するだろうか?

いままで、遠い存在であった難民をドイツが世界的にも多く受け入れていることを知ったのはこちらに暮らすようになってからだ。
そして、一体ドイツの何処に “難民キャンプ” のような場所があるのだろうかと不思議に思っていた。
知識不足とはこういう事なのだと痛感しながらもドイツの南部・アウグスブルクで難民問題に対して前例のない実験的な取り組みを行っている「グランドホテル・コスモポリス」に行ってきた。
この場所が自分の視野を広げる「旅」に繋がるとはまだ知らなかった私は難民問題の深さと抱える複雑な課題を思い知る事になったのだ。

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「グランドホテル・コスモポリス」は名前の通り宿泊施設であるが、ここは通常とは違った “ソーシャル・スカルプチャー”(社会彫刻)というコンセプトを取り入れたちょっとユニークなホテルだ。
このコンセプトはドイツの現代アーティスト・彫刻家・教育者・社会活動家のヨーセフ・ボイスが提唱した概念であり、「あらゆる人間は自らの創造性によって社会の幸福に寄与することができる。それはつまり、誰でも未来に向けて社会を彫刻でき、しなければならない。」という呼びかけである。

ここは旅行者の宿泊施設のみならず現在約難民60名への人道的住宅提供という役割も担っている “難民収容ホテル”とも言える。
ホテル内にはドイツ人と難民アーティストのアトリエ、イベントや展示スペース、またカフェなどが存在する。現在まだ工事中のレストランも近々オープンする予定だとか!

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もともと老人福祉施設として使用されていた6階建ての建物が設備の老朽化により使用されなくなったものを、アーティストや「何か面白いコトが起きている!」と聞きつけてやって来たボランティアたち自らの手でリノベーションを行っている。使用されている多くの資材や物資は “廃棄物” や “不要物”または寄付されたモノである。
洗濯洗剤の箱を利用したベッドフレームや不要になったクローゼットを利用して作り替えた2段ベッドなどがありとてもアーティスティックだ。もともとは廃棄される資材や物資に付加価値を加えることで更に価値のあるモノに変えるアップサイクルを行っている。

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難民住居スペースはホテルとは区切られた場所に設けられている。
多くの難民は “キャンプ” や放置された古い建物に隔離され社会から絶縁されていることが多いのが実情だ。
しかし、グランドホテルでは部屋もとてもシンプルだが “通常のメタル製の2段ベッド” などよりもいい家具を提供している。また、希望する者は自分の部屋をアーティスティックに装飾することも可能だとか。ある程度の個人のプライバシーと自立が尊重された環境のなかで共生することが配慮されているようだ。更にライフスタイルがソーシャルスカルプチャーというキーワードの元に積極的にコミュニティーに参加して行けることを理想としている。

また、ソーシャル・スカルプチャーというコンセプトは、施設の装飾やアップサイクリングなどのモノとしてカタチを取るだけではない。例えば、宿泊した旅行者や訪れる地域住民などが利用できるホテルのカフェでは “オープンプライス”方式が採用されている。これは利用者が代金を自分で決めるという形式だ。一般通念的な “価格” と “価値” という事柄に対して新しい気づきを提案すること自体が利用者も参加するアートである、という考え方も含まれているのだ。

現在、ホテルとしての営業はまだ始まっていないが、関係者のご好意で営業前のホテルに滞在することができた。

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滞在中はホテル関係者の方々に色々な話を伺い、スタッフミーティングにも参加した。そこで見えて来たことはまだまだ色々な課題があること。
難民、旅行者、アーティスト、ボランティアや地域住民のそれぞれ異なるニーズやテンションをどのようにまとめ、共存して行くのか。
それぞれの “場” で起きる課題をどう対処して行くのか。

その他にもたくさんの課題が議題にあがったが、その課題にホテルに関わる全ての人が協力して取り組むこと自体が “作品” すなわち “ソーシャル・スカルプチャー” である、ということなのだ。それらの課題(作品)に関しては別の機会に取り上げたいと思う。

この試みが “成功” することによって同じような取り組みが展開されるかもしれないので引き続き注目していきたい。

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